絵本学会

[第20回]絵本学会大会・報告

 2017年5月3日(水)-4日(木)、神奈川県横浜市のフェリス女学院大学にて、第20回 絵本学会大会が開催されました。今年度の大会は設立20周年を記念しての大会で、大会テーマは「絵本と絵本学の今、そして未来へ」でした。期間中は天候に恵まれ、参加会員は二日間で、のべ 177名、非会員の参加者は、3日 46名、4日47名と大勢参加してくださり、大学院生・大学生などの参加者を含め、総参加者は270名でした。遠方からの参加もございました。会員の皆様にはご協力ありがとうございました。NEWS 紙面を借りて、ここに深くお礼申し上げます。実行委員一同、一年前からしっかり準備し、大会運営もていねいに行いました。行き届かないところも多々あったと思いますが、それらのことは反省として記録に残し、次年度大会実行委員会へ申し送りしたいと存じます。
 

    • 第20回絵本学会大会実行委員会
    • 藤本 朝巳 (大会実行委員長)
    • 生田 美秋(大会実行委員・絵本学会担当理事)
    • 和田 直人(大会実行委員・絵本学会担当理事)
    • 佐々木由美子(大会実行委員)
    • 永井 雅子 (大会実行委員)
    • 中山 美加 (大会実行委員)
    • フェリス女学院大学ゼミ 院生・学生
    • 他 地域協力者 一同
プログラム

[第1日目]5月3日(水)


12:40~13:00 挨拶絵本学会設立20周年を迎えて
          初代会長:吉田 新一



わが国でも、また世界でも、初めてという<絵本学会>が、1997年5月11日に、東京の武蔵野美術大学を会場に誕生してから、今年で20年目を迎えました。
20年の歩みを顧みるとき、学会の存在意義の大きいことに改めて、気づかされます。絵本学会研究紀要の『絵本学』を頂点として、さまざまに、活発な研究分野が開拓されてきましたが、そうした研究活動が、それまではどちらかと言うと、個別分散的であったのが、絵本学会という場に集約されることによって、個々の研究に対する相互理解が深まり、新たな視野への展望が開かれる機会も多くなりました。
求心力のある学会のおかげで、会員の活動も自由多様に活発化してきましたが、率直に言って、従来は、絵本の研究が専らというか主に、文学・人文系、児童教育系、図書館系などの場でおこなわれてきたためか、ヴィジュアルな表現体である絵本の見方に偏りがあったことは否めませんでした。が、美術系、デザイン系の方々と合体して、ようやくバランスのとれた絵本独自の研究がおこなわれる場が設けられて、従来のかたよりのあった絵本研究を脱皮しはじめました。そして、研究発表の場も、絵本学会が誕生したおかげで、それまで心のどこかで場違いの所で、という遠慮というか引け目からも、解放されました。
エドワード・アーディゾーニも明言していたように、イラストレーションはいわゆる一般絵画とは異なるジャンルに属します。また、絵本は子どものための文化財であると同時に、その出来上がった形は、子どものため以外にも活用の場があるでしょう。そういう柔軟さ持った認識の下で、絵本というジャンルの多角的研究を認め合う場を、絵本学会は用意してほしいと思います。
こうした点を踏まえながら、改めて絵本学会が誕生するに至った理念を、20周年を迎えた今、もう一度振り返り、原点というか、初心を思い起こして、当学会のレーゾン・デートルを再確認しておきたいと思います。
絵本学会は、昨年8月に天寿を全うされた太田大八氏の熱意あふれる発言に触発されて、誕生の火がとぼされました。太田氏はまず1990年に次のように発言されました。「日本では、毎月おびただしい量の絵本が出版されているが、また、絵本作家や絵本のイラストレーターを志向する人の数も増加しているが、それらは必ずしも絵本の質の向上につながるものではなく、絵本の販売競争は、逆に、迎合、追従、媚態、と言った後退の傾向を数多くみせている。日本では、じつに多種、多様の絵本が氾濫し、同様の定価でも、その質の差は、低俗、卑俗なものから、国立美術館に収蔵してもよいほどのハイレベルのものまで混交のまま、購買者の選択にまかされている。本を選ぶための参考になる、評論や案内はあるが、イラストレーションそのものに対する評論は、皆無の状態である」と、絵本と絵本を取り巻く現状を嘆かれて、強い危機感を吐露されました。
更に、太田大八氏はこのようにも申されました。「絵本は人間が生まれて最初に出会う心の栄養剤です。よい絵本を創り、やさしさ、空想、ユーモア、知識を世界中に広げて、相互理解を増すことがたいせつです。絵本にこだわる人は、みんな同じ気持ちを持っているでしょう。だからみんなで、いま絵本について語り合い、勉強するために、友人たち、作家、画家、出版・図書館関係、文庫、保育、教育、学生、子どもたち、すべて絵本にかかわる人々が、便利な広場という意味のコンビニエンス・スクエア、すなわち、みんなの討論や研究・勉強の場となる存在の誕生が望ましい」と語られたのでした。申すまでもなくこれは、絵本芸術の質を高めるための悲願の声と、現状打破を訴える貴重な提言でありました。
こうした趣旨というか夢を、太田氏は<絵本フォーラム>という形の運動体として具体化しようとされていました。そして、その基盤となりうる、<絵本学>なるものが、構築できるか?」という問いも、太田氏は1994年になさられていました。太田氏のこの問いに答えるように、広く学会員の協力の下、2011年には日本初の『絵本の事典』も誕生しましたが、これは太田氏の問いかけに対する、あくまでも一つの答えであって、それをステップに、絵本学の構築にむけて、私たちは精進しなければならないでしょう。
太田氏の以上のような数々な諸発言は、多くの研究者が潜在的に抱いていた思いに火をともす結果となり、共感の声が、期せずして、というか、起こるべくして、起こりました。機の熟す時が、ようやく当来したと言ってよいのでしょう
私の理解が誤っていなければ、真っ先に賛成の声を発したのは中川素子氏でした。ついで、今井良朗氏も具体化の声を上げられました、お二人は周辺の同志を巻き込んで、まずは美術・デザイン系の方々の賛同・共鳴を集め、組織と運営を考えつつ、広く絵本研究者たちに声をかけられて、絵本学会は誕生することになりました。
こうして、絵本学会は、真に絵本を愛する人々の情熱の結集する場となり、会員の積極的な協力で、すでに数々の実りを生み、今20年目を迎えたのです。
『えほんBOOKEND』を初めとする各種の社会的啓蒙活動も行われてきました。そして、20周年を記念して「日本絵本研究賞」も創設されて、第一回の受賞作も選ばれ、故太田大八氏の思い描かれた<絵本フォーラムという形の運動体としての絵本学会>にふさわしい選考がなされたことなど、会員の皆様と共に喜びを分かち合い、絵本学会が今後も、創設時の初心を忘れずに、堅実・着実に発展をとげて、実りある研究結果を生み、絵本文化の向上に尽くして、アカデミックであると同時に、人々の日常の社会生活にも直接役立つジャンルとしての<絵本学>の確立を目指し、その実現を心から祈って、僭越ながら、私のご挨拶とさせていただきます。ご清聴をありがとうございました。(全文吉田新一)

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